旅のお話その32





      

      再び国道に出て、今度は本島南部の西側から那覇方面に向かうことんなりました。
      糸満市内の町中を抜け、北へ向かってタクシーは走ります。

      東シナ海を西側に見ながら移動中、突然Tさんがぽつり。

  T      「このあたりにはね、隠れた名所があるんですよ。いや、名所ってい
         う言い方はまずいかも知れないけど、出るところがあるんですよ。」
  わい     「出るって、何がですか。」
  T      「え、あれですよ。オバケ・・・。」
  わい     「・・・。むー。まあ、戦争でたくさん亡くなってるから、当然と言
         えば当然ですけどね。で、どんな感じに・・・。」
  T      「もうすぐ見えてきますよ。道路の左側に、見た目は普通のマンショ
         ンなんだけど、夜になると出るらしくてね、なんでも兵隊の格好をし
         た血まみれの人が立ってたとか、うめき声が聞こえるとか、いろいろ
         あるらしくてね。このあたりはマンションとかが少ないから、最初は
         たくさん入居したんだけど、そんなことが続くもんだから、入っても
         すぐに出てしまうんですよ。ああ、これこれ、このマンション。」

      確かに見た目は普通のマンションでした。ほんで一階か二階に洗濯物が干して
     ありました。入居しとるんだろかね?

  わい     「なんか洗濯物干してましたよ、だれか入ってるんじゃ・・・。」
  T      「ああそう。でもよくもって一週間だろうね、相当すごいらしいから。」
  三人     「・・・・。」
  T      「それじゃ、次、どこいきましょうか。海軍壕とかいいんだけどね。そ
         っち行きましょうね。」
  わい     「はい、まかせます。」

      田園風景から、次第にビルの数が増えてきます。再び那覇市内に入ったよう
     でした。ほんで車に揺られる内に、フロントガラスに水滴がぽつりぽつり。
      ちょっと雨が降ってきたようです。ひょっと空を見上げたぁ、先ほど見た入
     道雲の下の方ぃ入り込どりました。        
     
  わい     「少し曇ってきたね。さっきの入道雲の真下に居るんだろうかね。」
  T      「うん、そういうことになりますかね。」

      たわいもない会話を続けもって、町中を走ります。いつの間にやら国道から
     ほそい路地に入って、右へ左へ曲がります。

  T      「海軍壕へ行っているんですが、ここはわかりにくいところなんで、
         タクシーで歩いてこないと、なかなかたどり着けないところですよ。
          はい。つきました。ここから料金所まで案内しますから、そこから
         入りましょうね。ここは、料金が○○円出ますから。私は下の方の駐
         車場でいますから、そこでまた会いましょうね。」

      もうほのころには、沖縄流言い回し、そしてイントネーションには慣れてま
     した。Tさんの言葉を即座に理解して、料金所へ向かいました。      

      戦争映画などで、よう要塞というものを見ますが、ほのまんまの形をしてい
     たのにはおぶけました。下の写真を見てつかはるで。

         
      
      まあ、だいたいこんな通路が迷路のようにつながっとって、ほの所々が広お
     んなっとって、ほの中に、司令官室、医務室などがあったみたいやけど、その
     説明文の中では、白兵戦の状態ではもうほなん取り決めが意味をなさんかった
     っちゅうことです。戦闘の方法も、中世頃の2次元的な手法から、今日行われ
     とる3次元的な手法への過渡期であったことをうかがわせました。

      いろいろ考えされられもって、出口に向こたら、冨間さんが外で待ってくれ
     てました。

  T      「どうでしたか。」
  わい     「うーん、いろいろ考えされられることばかりですね。」
  T      「そうですか。じゃ。そろそろ約束の時間が迫ってきましたけど、ど
         うしますか。」
  わい     「(このとき、午後4時過ぎ)そうですね。いまからまた次、といっ
         ても、もう無理かな。じゃあ、この辺で打ち止めにします。」
  T      「そうですか。」
  わい     「そうそう、晩ご飯をまだ食べていないんですが、どこかおいしいと
         ころご存じですか。」
  T      「おいしいところね。そうね、まずいえることは、観光案内に載って
         いるところって、2流なんですよ。」
  わい     「え、それってどういうことですか。」
  T      「要するに、おいしい店は、宣伝なんかしなくてもお客さんが集まっ
         てくるんですよ。けど、そうでないお店は宣伝しないとお客がこない。
          それと、いい店っていわれるところは、観光客が来るのを嫌う店が
         あってね、だから、そういう店に行くときは、よそ者って悟られない
         ようにしていくのが一番です。観光客ってわかった瞬間に門前払いを
         食らうことも多々ありますよ。」
  わい     「うーん、以外だな。けっこう閉鎖的な部分もあるんですね。」
  T      「まあ、よほど目に余ることをしなければ、そんなこともないでしょ
         うけどね。飲んで大声出して大騒ぎするとか・・・。」
  わい     「ああ、そういうことね。そんなことしないから大丈夫ですよ。」 
  T      「じゃあ、私が知っているとっておきのお店に行きましょうね。ただ
         し、ここのお店も地元の人しか来ないから気をつけてくださいよ。
          よほど下品なことでもしない限りは、追い出されることもないでし
         ょうから。ただ、お客さんの中には、観光客ってわかると、絡んでく
         る人もいますから、そんな人は無視してくださいよ。」
  わい     「ああ、はい、わかりました。」
  T      「じゃあ、行きましょうね。」          
                   
      そして、私達が案内されたところは、仕事の行き帰りにいつも通っている、
     泡瀬町内の通りにあるこじんまりとした店でした。

  わい     「え、ここですか。」
  T      「はい。そうです。けど、どうかしたんですか。」
  わい     「いや、ここって、いつも仕事の行き帰りで通っている通りなんです
         けどね、ここっておいしいんですか。以外ですね。そのうち寄ってみ
         るか、とか話をしていたところなんですよ。」
  T      「ははは、まあそんなもんですよ。」
  わい     「じゃあ、ここで降りすますんで、どうも今日一日ありがとうござい
         ました。また今度沖縄に来ることがあったら、Tさんを指名します
         から。(^^)」
  T      「そうですか。じゃあ、ここでメーターを止めましょうね。ところで、
         足がないと思うんだけど、お店から宿舎まではどうするんですか。」
  わい     「え、ああ。また別のタクシーを拾いますよ。」
  T      「そうですか。どうしようか、待っていてもいいけど、予定の時間を
         過ぎてしまうし・・・。じゃ、私がタクシー代出しておきましょうね。
          ここから中城湾港まで○○円ぐらいだから、500円出しておきま
         す。」

      このときのTさんの行動は、本土に住む者からしたら、理解しがたいことや
     った。けど、この心の寛容さ、これこそが沖縄に引きつけられる魅力なんかも
     しれません。

  わい     「けど、Tさん、それってあべこべじゃ・・・。」
  T      「いいから受け取ってください。私も今日一日楽しかったから。」
  わい     「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えていただいておきます。では、
         今日一日どうもありがとうございました。(^^; じゃないですね。
         いっぺーにふぇーでーびる。あんしぇ、ぐぶりーさびら、ですね。」
  T      「ははは、マスターしましたね。(^^) じゃ。気をつけて。また沖縄
         に来てください。じゃ、ぐぶりーさびら。」

      このときのわいの気持ちを率直に言うたら、もっともっと話がしたかった。も
     し許してくれるんやったら、泡盛でも酌み交わして一晩中語り合いたい気持ちや
     った。
      あまりにも短い6時間。今すぐにでも引き留めたい気持ちを抑えもって、Tさ
     んを見送りました。   

     (続く)

        


 

     
 


 

(続く)     



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最終更新日 2001.10.01