しばらく走ると、国道からはずれ、うーじ畑の中のあぜ道に入り込んだのでした。
「うーじ」、つまり、大和語でいうところのサトウキビですが、食卓でよく目に
する砂糖、これって、土手に生えているカヤがふと長くなったような代物で、見慣
れない者にすれば、只の雑草にしか見えません。実際のところ、その外見から、旅
の道中で、道ばたにたくさんあるサトウキビ畑について質問を受けたのでした。
そんなうーじ畑のあぜ道をゴトゴトと車に揺られながらふと三叉路にさしかかると、
国定公園の案内の看板を見つけました。確かに「喜屋武岬」と書いてあります。
看板を横目に少し走ると、少し開けたところに到着しました。
「ここはね、とっても景色がきれいなところだからぜひみておきましょうね。そ
れと、「ぐすく」って何だか知っていますか。」
「グスク? いや、知りません。何ですか。」
「昔の城の跡なんですよ。まあ、城の跡と言ったって、大阪城とか、でっかいお
城があるんじゃなくて、琉球石灰岩の石垣があるだけなんですけど・・・。
私のお気に入りの場所でね、へへへ。案内しますから行きましょう。足下悪い
から気をつけてくださいよ。」
案内されるまま歩いていると、珊瑚のかけらを大量に積み上げているところがあ
り、そこを登っていきました。ちょっとした小高い丘と言う感じかな・・・。
「今私達が立っているところが、その「ぐすく」なんですよ。本島のあちこちに
いっばいあります。景色もきれいでしょ。」
「そうですね。」
「ああ、景色はもっときれいなところがあるから、そっちへ行きましょう。ここ
よりずっときれいだから。」
言われるがままに再びタクシーに乗り込み、しばらく走ると、休憩所がある広い
ところに出ました。
![](kyanmisaki01.gif)
「はい、つきました。ここなんですけどね、案内しましょうね。」
言われるがままついていくと、そこは断崖絶壁で、遙か彼方まで、ずっと青い海
と青い空が続いていました。ここでも記念写真をぱちり。
「ああ、よかった。今日はかなり上等ですよ。少し雲が出てきたから心配だった
けど・・・。でも、このきれいな景色とは裏腹に、戦争中は、追い込まれて逃げ
場がなくなった人がたくさん海に飛び込んでなくなったんですよ。。。」
「そうですか。南部は激戦地でしたからね・・・。」
独り言のようにつぶやくTさん。私は、ふと北の方へ振り返り、驚きました。
私にとって、いままでに見たことのない物が目に映っていたのです。
徳島でいれば、その頭しか見えない入道雲。四国山地と讃岐山脈で遮られて一部
しか見えない入道雲。岬から北の方を見ると、あまりに巨大なその入道雲の姿全体
が見えている。
そして、その入道雲、本島中部(那覇、沖縄市近辺)を、偏西風に乗って、丘陵
を乗り越えようとしていました。
私がぼーっと北の空を見ていると、他の二人が私に声をかけます。
「おい、どしたん。」
「え、・・・。いや。あれ・・・。」
「あれって。入道雲がどしたん。」
「入道雲の全体って見たことあるか。」
「・・・。いや、ないなぁ。・・・。」
「雲の下の方、かなり暗いなあ。」
「たぶん。雨ふいようぞ。」
「うん。」
Tさんも、その雲を見ながらぽつり。
「入道雲か。いつも見てるはずなのに。・・・。意識して見るとすごいな・・。」
だんだんと曇り空になってくる空を見て、はっと我に返ったように、
「じゃ、そろそろ行きましょう。雲が出てきて、那覇に戻ったら雨降ってるかも
知れないし。」
と、Tさんのアドバイス。
そそくさと喜屋武岬を後にしたのでした。
|