旅のお話その24





    「玉泉洞はどうでしたか。よかったでしょ。」
    「ええ、よかったです。ものすごく大きな鍾乳洞ですね。昔、中学生のときに
    山口県の秋吉台に行ったことがあるんですけど、あの秋芳洞の倍はあるんじゃ
    ないですか。」
    「パイナップルは見ましたか」
    「ええ、見ました。Tさんが心配していたけど、ちゃんと実がなってました
    よ。あとね、マンゴージュースも飲みましたよ。Tさんがお勧めのやつ。
     おいしかったです。」
    「他は、何を見たんですか。」
    「植物園を出て、土産物屋を一通り回って、エイサーの会場に行こうとしたら、
    もう始まってて、というか、終わりに近かったんですよ。そして、会場の隙間
    から中を見たら、演舞団の人が「ありがとうございました〜」って挨拶してた
    んで、あきらめて、また土産物屋に戻って買い物してました。
         ただ、残念だったのは、にふぇーでーびる、って言ってなかったんですよね。
     あれやっぱり、「にふぇーでーびる、ありがとうやいびーたん。」って、方
    言で言ってほしいような気がしますね。
     たとえ言葉はわからなくても、観光案内なんかにちょこちょこっと入ってる
    でしょ。挨拶言葉とか。出会いの挨拶なんかも、「いらっしゃい」じゃなくて、
    「めんそーれ」って言ってくれたら、そりゃもう異国情緒たっぷりで、観光客
    はもっと喜ぶと思うな。」
    「ふーん、そんなもんですかね。とにかくわかりにくい言葉なんで、標準語で
    話すのが当たり前になってるんだけど。そうでもないんですね。しんちゃんさ
    んみたいな人もいるんだ。観光客には何が受けるのかって、以外と、地元の人
    間にはわかりにくい部分かもしれないな・・・。ところで、荷物がかなりあり
    ますね。何買ったんですか。」
    「僕はね、琉球ガラスの置物かな。黒糖の試食コーナーがあって、おいしいな〜、
    っと思って、値札を見たら、ずいぶん高かったんで、あきらめました。」
    「そうですか。だいぶ楽しんだみたいですね。じゃ、お昼ご飯、食べに行きま
    しょうね。景気のいいところと、味のいいところがあるんだけど、どっちにし
    ましょうかね。」     
 
    究極の選択が続いておりまして、はっきり言って悩みました。で、協議の結果、
   景色の方を取ることにしました。

     「うーん、今からだとどうかな。日替わりメニューで料金が少し安いんだけど、
     時間制限があるからね。とりあえず、行ってみましょう。もし、時間過ぎてた
     らごめんなさいね。」

        道中、Tさんの観光案内です。

     「そうそう、沖縄にしかないめずらしいものってなにがあるか、知ってますか。」
     「えーっと、さっきいっていた、シーサーですか。」
     「えっ? ああ、まあそれもありますけどね。ちょうどいいや、ところどころ
     に家がありますけど、その屋根を見てください。屋根にシーサーが載っている
     んだけど。本土でもありますか。」
     「いやぁ、ないですよ。シーサーのたぐいは、本土じゃ狛犬っていいますけど、
     家にはないです。神社の参道とかにありますね。」
     「狛犬?」
     「神社の入り口に犬みたいなものを置いてあります。あれがそう。」
     「ああ。あれね。ですが、ここ沖縄ではそれが家の屋根とか、門の上にあるん
     ですよ。それでね、上等ものは、素焼きか、薄い色を塗ってあります。で、輸
     入物は、色が濃いんですよ。だから、見る者が見れば、いいものかそうでない
     ものかは一目見ればわかります。まぁ、一種の魔よけですよ。それとね、あれ
     って、雄と雌があるの知ってますか。」
     「えっ! そうなんですか。うーん。わからないな。」
     「もともとは一匹だけだったんですよ。一匹っていういいかたもおかしいかも
     しれないけど。それで、かわいそうなんで、もう一匹つけたらしいです。口を
     開けているのが雄で、口を閉じているのが雌です。」


    なるほど、よくみると、ほとんどの家にはシーサーが載っています。屋根になく
   ても、玄関の門柱の上に載せられていて、口をあけているものと閉じているものが
   ありました。

     「それとね、門扉の代わりに屏風(びょうぶ)たいなものがあるんですよ。こ
     れも沖縄にしかないものですね。「ひんぷん」っていうんですが。那覇とか、
     町中では見られないけど、少し田舎の方に行くと、たいていの家の玄関先はそ
     うなってます。それから、石敢當(いしがんとう)とかもありますが、これは
     逆に、町に行かないとあまりないな。通りの角に、石碑みたいなものがあって、
     それに「石敢當」って書いてあります。」

    Tさんの話を聞き、よくよくみると、確かにあります、「ひんぷん」そして、
   古い石垣づくりの塀がある家にはかならずといっていいほどありました。

     しばらく走っていると、なんだか見たことのあるような風景が迫ってきました。

    「ここって、なんかでみたことがあるなあ。どこなんですか。」
    「もう、糸満市にはいってますよ。今、平和記念公園の横を通っていますよ。
     とりあえず、食事を先にしましょうね。」

    着いたところは、しなびた古いドライブインでした。あまりぱっとしないなあ、
   と思い、奥の方に進みますと、まさに絶景でした。

    糸満市の丘陵が一望できるのです。大変きれいな風景でした。けど・・・、こ
   の風景って、何かで見たことがあるような・・・。

    その風景は、記録映画などで見ることが出来る、沖縄戦のときにアメリカ軍が
   上陸したあの地そのものでした。
        50余年前、世界の列強に翻弄されたあの地が今、目の前にある。美しい景色
   とは裏腹に、過去の出来事が脳裏をよぎり、複雑な気持ちになったのでした。    

(続く)



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最終更新日 2001.2.22