旅のお話その19





    私  「あと、独特の言い回しってありますよね。たとえば、車を歩かせると
       か。服をつけるとか。」
    T  「え、本土の人はなんていってるのかな。」
    私  「車は走るもので、服は着るっていいます。」
    T  「ああ、なるほど! そうですね。確かに言ってますね。言われてみる
       と。確かにそういうのはあるね。自分は何にも思わないけど、本土から
       来た人は違和感があるのかな。時々聞き返されるときはありますよ。」
    私  「そうでしょうね。実は、インターネットで沖縄のことをちょっと調
       べたんですけど、やっぱり言葉が重要ですよね。」
    T  「ああ、そうだ。今度沖縄にくる予定ってあるのかな。もし、機会が
       あったら、タクシーに乗ったときに、りっかりっかいっちょーれー、
       って言ったらたぶんびっくりすると思いますよ。」
    私  「え? りっ・・・。なんですか。もう一度教えてください。」
    T  「りっかりっかいっちょーれー。」
    私  「りっかりっか? どういう意味ですか?」
    T  「えーとね、早く行ってくれって意味ですね。りっかりっかいっちょ
       ーれ、りっかりっか、はっしはっし、てね。この人沖縄の人かなって、
       絶対勘違いしますよ。アハハ!」 
    私  「へえー、なるほど。勉強になりました。機会があったら使ってみま
       す。」 
        T  「あっそうだ。こっちへくるとね、珍しいものがあるんですよ。って
       まあ、私には珍しくはないんですが、あの、マンゴーって果物があり
       ますね。あれってどういう風に成ってるか知ってますか。」
    私  「えーと、あれは南の方でしか採れない果物ですよね。キウイみたい
       な感じですかね。」
    T  「えっ、・・・。キウイ? キウイってなんですか。」
    私  「は? だからキウイフルーツですよ。」
    T  「・・・・・。メロンみたいなかんじですかね。」
    私  「ええっ。知らないんですか。卵ぐらいの大きさで、灰色っぽくて周
       りに毛が生えてるやつですよ。」
    T  「みればわかるんだろうけど・・・。ま、とにかくマンゴーを栽培し
       ている農家が道ばたにあって、よく見えますから、是非とも写真にと
       ってくださいね。他の観光客によく聞かれるんですよ。マンゴーの食
       べ方とか食べ頃って知ってます?」
    私  「いや、知らないです。」
    T  「店で売ってるのは、すこし若くて堅いんです。だから、しばらく冷
       蔵庫の中に入れておいて、時々指で押さえてね、柔らかくなってきた
       ら、頃合いを見計らって、食べるんですよ。」
    私  「ふーん」

    しばらく走ると、のどかな田園地帯にさしかかりました。Tさんが車を止めます。
   
    T  「えーと、これがマンゴー畑ですけど。車止めましょうね。たぶんみた
       ことないと思うんで、是非写真にとって、土産話にしてほしいんですけ
       どね。」


    私  「ふーん、紙袋でおおいをかけているんですね。あれは、やっぱりセミ
       よけですね。」
    T  「ええそうですよ。よく知ってますね。あれしないとね、セミが汁を吸
       って、その傷口から腐ってきて商品価値がなくなるんですよ。周囲に網
       でおおいをしてるでしょ。全部虫除けですよ。」 
       私  「ふーん、まるで梨畑みたいですねぇ。」
    T  「梨? 梨って、果物の梨ですか? 梨はみたことないんです。」
    私  「リンゴみたいなかっこうで、色が、灰色というか茶色っぽいんです。み
       た感じはリンゴと一緒ですよ。」
    T  「へえ、そうですか。リンゴは高級品ですよ、沖縄じゃあ。」
    私  「高級品? ああ、ひょっとして、沖縄じゃあ気温が高すぎて育たない?」
    T  「そうなんです。徳島ではどうですか。」
    私  「うーん、昔はバナナとかも一緒で、ものすごく値段が高かったけど、
       今は違うね。そんなに高くないなあ。」
    T  「バナナが? 高かったの?」
    私  「そう、私がまだ小さかった頃はね。値段が高かったから、病気したと
       きとか、遠足の時でなかったら食べられなかったなぁ。」
    T  「なんだかよくわからないけど・・・。」
    私  「そうだ。似たような話でね、徳島では温州みかんは掃いて捨てるほど
       あるんだけど、私の友達が冬に北海道旅行したときにね、その温州みか
       んをたくさん持っていってね、バスガイドのおねーさんに、なにげなく、
       「これあげる」って言ってみかんをさしだしたんだけど、そのバスガイ
       ドがね、なんて言ったと思います?」
    T  「うん・・・なにみかんですか。」
    私  「温州みかんですよ。沖縄でいう、たんかんみたいなものかな。ミカン
       の一種です。」
    T  「そうですか。なんて言ったのかなぁ。いゃあ、想像がつかない。」
    私  「そんな高級品、いただけません。って言ったらしいんですよ。で、言
       われたこっちも逆にびっくりしてね。なにいってんの、徳島じゃ腐るほ
       どあるから気にしないでくれ、って言って、無理矢理手渡したらしいん
       ですよ。」   
    T  「なるほどね、地方地方でとれるものが違うから・・・。」
    私  「全くその通りですよ。そのバスガイドは東北の出身で、東北では柑橘
       類は育たないらしいんですよ。」
    T  「で、梨ってどういう風になってるんですか。」 
    私  「このマンゴーみたいな感じです。ブドウも一緒ですよ。梨もセミによ
       くやられるんで、袋をかぶせて、周囲を網で囲っています。」
       T  「そうですか。こりゃ久しぶりに楽しいな。じゃ、玉泉洞行きましょう
       ね。」

    とにかく、車の中では、私とTさんとの言葉のキャッチボールが延々と続
   きました。   

      

(続く)



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最終更新日 2001.1.7