Tさん、苦笑いしたまま、中城から車を走らせます。しかも無言。
何か粗相があったのかと心配になり、Tさんに尋ねました。
私 「どうかしたんですか。」
T 「え、いやべつになにもありませんけど・・・。あぁ、実は先頭に
止まっていたから順番でお客さんが話しかけてくるでしょ。断るの
が一苦労でね、はやくあそこから出たかったんですよ。」
なんだ、そうなのか。なんてことはない、単なる私の取り越し苦労
でした。
T 「で、今日は半日貸し切りってことですけど、どこ行きますか。玉
泉洞とか行きました? 名護の方もいいんだけどね。喜屋武岬も上
等ですよ。だいたい決めてきましたか?」
でました。いつものT節です。(^^)
私 「えーと、いろいろ話はしたんですけど、結局私らは、沖縄のこと
をちっとも知らないんです。でも、半日で沖縄本島全部を周遊する
のは無理でしょ? だから、とりあえず南半分を回ってもらって、
めぼしいところはTさんに選んでもらおうと思ってるんですよ。」
T 「ああー、そうですか。いやこまったな。いいところはいっぱいあ
るんですよ。じゃ、南の方行きましょうね。とりあえずパンフレッ
トがあるから、これみてください。じゃ、とりあえず、南の方が観
光名所が多いんで、そっちの方に向いて走りますから、適当に決め
て下さいね。でも、是非みてほしいところもあるんだけどね、平和
記念公園とか、ひめゆりの塔とか、摩文仁の丘とか、海軍壕とかほ
んと上等ですよ。決まったら言ってください。」
はっきり言って困りました。パンフレットには、10カ所くらい観光名
所がかかれています。しかし、結局、島の南半分といえども、表示のある
観光名所を全部回るのは無理と言うことで、とりあえず、一番メジャーな
玉泉洞に行くことになりました。
行くと言っても、車で30分くらいかかるということなので、しばし私
とTさんのトークタイムです。
さて、ここは、Tさんにうちなーんちゅ代表として答えてもらうぞ。
私 「いきなりこんな話をして気を悪くしないでほしいんですけど・・・。
Tさんって、当然沖縄の人ですよね。標準語が上手ですね。や
っぱり、観光客相手の仕事をしてるからなんですかね。」
T 「はい、生まれも育ちも沖縄ですよ。え、そうですかね。多少なま
ってるとは思いますけど。ああ、実はね、学生の頃に、関西で生活
してたことがあってね、その影響かな。でも、もうずいぶん前なん
だけど。」
私 「ああ、そうですか。いや、沖縄って、独特の方言って言うか、言
葉がありますよね。先日、国際通り行きましてね。そのときあちこ
ち歩いたんですけど。」
T 「ああ、私がこの前乗せていった時ね。で、どうでした。よかった
でしょ。」
私 「ええ、よかったですよ。で、あのあと、平和通りとか、市場通り
を歩いたんですけどね。気になったことがあったんですよ。」
T 「へぇ、そこまでいったの。公設市場は行ったんですか。で、何か
ありましたか。」
私 「いやね、公設市場までは行かなかったんだけど、ただ・・・、方
言でしゃべってなかったんですよ。」
T 「そんなことないでしょ。みんなしゃべってると思うけど。」
私 「いや、それがね、地元の人同士だと当然方言でしゃべるじゃない
ですか。実際、そういうのをみたんですけど、市場通りで。でも、私
がその人らに近づいていくと急に標準語に言葉が変わってねぇ。び
っくりしたんですよ。」
T 「それは、観光客ってわかったからじゃないですか。」
私 「と思ったんですけどね。そこにいたお客さんまで標準語になってた
んですよ。」
T 「・・・・。そうかなあ。あんまりそういうのを意識してないからな
あ。」
私 「さっき、Tさんに挨拶したとき、うちなーぐち使ったの、わかり
ました?」
T 「そりゃわかりますよ。地元の言葉だから。けど、どこで勉強したん
ですか。」
私 「市場通りで、その言葉の変化が3回くらいあってね、それで不思議
に思ってね。気になって、国際通りのとある本屋さんで、うちなーぐ
ちの本を買って覚えたんです。」
T 「で、方言で、うちなーぐちで話しました?」
私 「いや、ちょっと本を読んだぐらいではむりですけど、でも、挨拶は
覚えましたよ。たとえば〜、はいさい、ちゅーがなびら、ちゃーびら
さい、とか、にふぇーでーびるとか、ぐぶりーさびらとかね。」
T 「へえ、すごいね。それだけ知ってれば、挨拶は十分ですよ。」
私 「それで、本を買って、県庁のところに公園みたいなところがあって
ね、そこで本を読んで、とりあえずさっき言った言葉を覚えて、帰り
のタクシーで、料金の支払いの時に、にふぇーでーびる、あんせ、ぐ
ぶりさびらって言ったんです。」
T 「ふんふん、それで。」
私 「運転手さん、なんかものすごくうれしそうな顔になってね・・・。
やっぱり、方言で話してくれた方がうれしいですかね。」
T 「そりゃうれしいですよ。けど、本土から来た人で、方言で話す人な
んて、そんな人はほとんどいないなぁ。ああ昔いたなあ、いや・・・。
あれは地元の人だから、・・やっぱりいないね。しんちゃんさんが
初めてですよ。」
私 「へえ、そうですか。なんか不思議な気もするけど。」
観光客から方言で話しかけられたことがないというTさんの発言はにわか
に信じがたいものでした。
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