慣れない土地で緊張が続き、不覚にも居眠りをしてしまいました。もちろん、私だ
けではなく、他の者もうとうととしています。
そんな状態がしばらく続きました。ふと時計を見ると、もう四時あとです。
「もーそろそろ帰るで。」
というと、皆も同意見でした。
三越の一階まで降りて、外に出ます。ドアに手をかけ、開けたとたん、強烈な熱気。
そして、ひとたび身体を外界にさらすと、またもや強烈な熱線のシャワー。さっき飲
んだジュースが汗になってしたたり落ちます。
さて、タクシーを探さないと、等と考える間もなく、私たちのそばをタクシーが歩い
ていきます。そのうちの1台を拾い、乗り込みました。
本当は、時間には十分余裕もありまして、夕食も国際通りで食べようということだっ
たんですけど、沖縄の熱さをなめていたこともあり、予想外の熱疲労に完全にノックア
ウトです。
ここは灼熱の太陽光線からいさぎよく引き下がり、体力の温存、回復を考えた方が良
さそうでした。
帰る途中、タクシーの運転手さんとまた会話です。
私 「あついですねえ〜。」
運転手 「・・・・そうですね。」
私 「いつもこんなに熱いんですか。」
運転手 「・・・・そうね。まだましなほうかな、今日は。まだ涼しい方かな。」
私 「はあ? そうですか・・・。ずっとこんな感じですか。」
運転手 「・・・・そう、こんな感じたね。」
いい加減熱いと思っていたのに、まだすずしいほうだとのこと。言葉を失いました。い
やはや参りました。もう降参です。
そうするうちに、宿舎が見えてきました。
「今回乗ったタクシーの運転手さんは、無口な人で 余りしゃべらない人だな。話しか
けてもなんか返事が遅いし・・・。」
そう思っていたのですが・・・。
中城湾港に入り、交差点を左に曲がり、もうそこまでというところまで来たとき、後に
乗っていた同僚が運転手さんに話しかけます。
「ああ〜。ほこでとまってくれるで。」
(あ、そこで止まってくれますか。)
案の定、無反応です。さっき、温度のことを聞いたときも返事がワンテンポ遅れていた
・・・。どうも理解できていない様子です。で、すかさず、考えていたことを実行してみ
ました。
私は、蚊が鳴くような小さい声で、
「いぃ〜、ここでぃとぅめれー。」
と言ったのです。
すると、猫背でぼーっとした感じの運転手さん、その言葉を聞くやいなや、ぴーんと背
筋が伸び、どーんと急ブレーキ。この反応速度、0.3秒くらい。アイルトン・セナ並み
の反応速度だよ。
「うわぁ〜!」
突然の急ブレーキでみんなびっくり。助手席に乗っていた私は、ダッシュボードで顔を
打ちそうになりました。
そして、
「はい〜っ、つきましたっ!」
と、運転手さん。
そりゃ着いたんだけど、ちょっとブレーキの踏み過ぎだってば。そう思ううち、さっき
とはうってかわって、なんかおどおどした感じで、あわててメーターを止め、
「○○円です。」
私がお札を渡すと、運転手さん、まだあわてた様子で、お釣りを手渡してくれました。
このとき私は、運転手さんにうちなーぐちで、「ありがとう」と言おうと思ったのです
が、ど忘れしてしまった。
しかたなく、あわてた様子の運転手さんに、
「ありがとうって、うちなーぐちでなんていうの。」
と聞いたのです。すると、運転手さん、緊張した面持ちから、一瞬唖然とし、そしてにっ
こりと笑って、
「にふぇーでーびる。」
と教えてくれました。
このときの表情は忘れることはできません。そば屋のおばちゃんも、市場のおばあも、
何かしら緊張した面持ちだった。この運転手さんもそうだった。けど、私が方言のことを
聞いた瞬間に、その緊張がとけ、何ともいえない優しい笑顔になったのでした。
「にふぇでーびる、ですか。じゃ、どうもありがとう。にふぇでびる。」
運転手さん、ほんとうにうれしそうだった。お国言葉で話をすることがこれほど効果を
発揮するとは思いもよりませんでした。
そして、タクシーから降りるとき、
「にふぇでーびる。あんせ、ぐぶりさびら。」
と言うと、運転手さん、黙ってにっこりと笑い、うなづいてくれました。
その様子を見ていた同僚が、私に話しかけます。
「おい、いまなんていうたん。」
(おい、今何と言ったのか)
私は、
「いやいや、沖縄の方言で、どうもありがとう、では失礼します、って言うたんよ。」
と回答しながら、タクシーの方に振り返りました。すると、運転手さん、運行記録を付けて
いましたが、いまだ顔はにこにことして、決して作り笑顔でなかったことがわかりました。
とりあえず、ここで、第1回うちなー探訪は終わりです。
だ、でも、でーじちかれたやいびん。とにかく宿舎にけーそーち、はやさゆくいびら。あち
ゃー、またしくちやいびん・・・。
あちゃー休憩時間ぐぁ、今日一日ぬ反省会さびらな。
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