旅の話その7





    私が入り込んだ通りは、市場(まちぐぁ)通りでした。
    入ってすぐは、表通りと変わらぬ土産物店が並んでますが、しばらく歩
   くと、だんだんと風景が変わってきます。
    衣料品店がそのメインを占めてくるではありませんか。
    なんだか店の種類が変わってきたな、と思いつつ歩いていると、細い路
   地を過ぎて、今度は食料品店がいっぱい並んでいます。それも生鮮食品です。
    私の目に付いたのは、鰹節が山積みになって安売りされていたところかな。
    約30メートル離れたところで、鰹節の山を見つけ、おぅ、やっぱり魚主
    体だねぇ、なんか高知みたいだな、(高知県も鰹節の名産地です)等と思い
    ながら、周囲を見ると、おばあが店番やってます。
    地元の人が買い物に来ているから売り込みに必死です。
    でも、なんか言っているけどよく聞き取れない。方言でしゃべってるなあ、
   たぶん。客ももおばあに何か話しかけている。
    いったい何の会話をしているんだろう。

    まあ十中八九、 

     「これなんぼ。」         「う~、くれー、ちゃっさがさい。」
     「○○円やけんど」        「○○円やいびーん。」 
     「もっとやすうにならんのえ。」  「もっと安めれ~。」

   といった会話でしょうが、距離があって聞き取れない。(と最初は思っていた。)

    じっとおばあの姿を見ていると、向こうもこちらの気配を感じたのか、急に
   こちらの方を向き、おばあと目が合ってしまった。
    まあ目が合ったのはいいとしましょう。そば屋のおばちゃんと同じく、また
   さらに理解できないことをおばあがしたのです。

    しばらく(2、3秒)の沈黙の後、おばあがしゃべる言葉が急に標準語に変
   化したのです!

    おばあの言葉の変化で、客も急にきょろきょろしている。向かい側の店番の
   にーにーも、きょろきょろしている。そして、みんなの視線がいっせいに私の
   方へ・・・。

    げげっ、みんな私を見ている!

    私はその異様な雰囲気に思わず足を止めてしまった。
    その直後、さらにとんでもないことが・・・。
    みんな、標準語でしゃべっている!(少しなまってるけど)おいおい、さっ
   きまでうちなーぐちでしゃべってたんじゃあなかったのか・・・。

    私は、動揺しながらも、あくまで平静を装いそこを通り過ぎようとしました。
    すると、おばあが・・・・。

    「あ~。そこのおにいさん。(ぎくっ。私のことか?)買っていかないか。
    安いよ。安くしとくよ~。・・・」

    (「うわぁぁぁぁ~~。なんでそこで私に声をかけるんだい? しかも東京
   の下町のなまりじゃねーか。やい、てめーいったいなにもんで~い。なんか変
   だぜ~。」)

   と思いながらも、平静を装い、おばあに愛想笑いをしながら私は歩き続けます。
   (たぶん、このときの私の顔は、ひきつっていたと思う)

    私がそのおばあの店を通り過ぎると、後の方で、

    「あはぁ、ありゃだめだ。買わないよ。」
    「そりゃそうだ。観光に来てんだよ。買わないよ。カメラ持ってるし。」
    「でも観光でここまで入ってくるかい。」(え、どういうこと?)
    「めずらしいよね~。」

   という声がしている。
   (みんな聞こえてるって! けど~、観光客は、この通りに入ってこないのか
   ぁ?) 
    なんだかんだと会話を続けるうちなーんちゅを背後に感じながら2歩3歩と
   その場を離れていくうち、急に会話が聞き取りにくくなった。

    ?

    私は振り返る。
    私の耳が遠いのか? いや。そんなに耳は悪くないよ。(顔は悪いけど(^^;
    喧騒にかき消されているのか。確かに騒がしいが。
    いや、やっぱり何か話をしている。けど語尾が聞きづらいな。うーん、何を
   言っているのかよくわからない。・・・まあいいか。

    私は動揺しながらも、商店街のさらに深部へと足を進めていったのです。

(続く)



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最終更新日 2000.08.16