私が入り込んだ通りは、市場(まちぐぁ)通りでした。
入ってすぐは、表通りと変わらぬ土産物店が並んでますが、しばらく歩
くと、だんだんと風景が変わってきます。
衣料品店がそのメインを占めてくるではありませんか。
なんだか店の種類が変わってきたな、と思いつつ歩いていると、細い路
地を過ぎて、今度は食料品店がいっぱい並んでいます。それも生鮮食品です。
私の目に付いたのは、鰹節が山積みになって安売りされていたところかな。
約30メートル離れたところで、鰹節の山を見つけ、おぅ、やっぱり魚主
体だねぇ、なんか高知みたいだな、(高知県も鰹節の名産地です)等と思い
ながら、周囲を見ると、おばあが店番やってます。
地元の人が買い物に来ているから売り込みに必死です。
でも、なんか言っているけどよく聞き取れない。方言でしゃべってるなあ、
たぶん。客ももおばあに何か話しかけている。
いったい何の会話をしているんだろう。
まあ十中八九、
「これなんぼ。」 「う~、くれー、ちゃっさがさい。」
「○○円やけんど」 「○○円やいびーん。」
「もっとやすうにならんのえ。」 「もっと安めれ~。」
といった会話でしょうが、距離があって聞き取れない。(と最初は思っていた。)
じっとおばあの姿を見ていると、向こうもこちらの気配を感じたのか、急に
こちらの方を向き、おばあと目が合ってしまった。
まあ目が合ったのはいいとしましょう。そば屋のおばちゃんと同じく、また
さらに理解できないことをおばあがしたのです。
しばらく(2、3秒)の沈黙の後、おばあがしゃべる言葉が急に標準語に変
化したのです!
おばあの言葉の変化で、客も急にきょろきょろしている。向かい側の店番の
にーにーも、きょろきょろしている。そして、みんなの視線がいっせいに私の
方へ・・・。
げげっ、みんな私を見ている!
私はその異様な雰囲気に思わず足を止めてしまった。
その直後、さらにとんでもないことが・・・。
みんな、標準語でしゃべっている!(少しなまってるけど)おいおい、さっ
きまでうちなーぐちでしゃべってたんじゃあなかったのか・・・。
私は、動揺しながらも、あくまで平静を装いそこを通り過ぎようとしました。
すると、おばあが・・・・。
「あ~。そこのおにいさん。(ぎくっ。私のことか?)買っていかないか。
安いよ。安くしとくよ~。・・・」
(「うわぁぁぁぁ~~。なんでそこで私に声をかけるんだい? しかも東京
の下町のなまりじゃねーか。やい、てめーいったいなにもんで~い。なんか変
だぜ~。」)
と思いながらも、平静を装い、おばあに愛想笑いをしながら私は歩き続けます。
(たぶん、このときの私の顔は、ひきつっていたと思う)
私がそのおばあの店を通り過ぎると、後の方で、
「あはぁ、ありゃだめだ。買わないよ。」
「そりゃそうだ。観光に来てんだよ。買わないよ。カメラ持ってるし。」
「でも観光でここまで入ってくるかい。」(え、どういうこと?)
「めずらしいよね~。」
という声がしている。
(みんな聞こえてるって! けど~、観光客は、この通りに入ってこないのか
ぁ?)
なんだかんだと会話を続けるうちなーんちゅを背後に感じながら2歩3歩と
その場を離れていくうち、急に会話が聞き取りにくくなった。
?
私は振り返る。
私の耳が遠いのか? いや。そんなに耳は悪くないよ。(顔は悪いけど(^^;
喧騒にかき消されているのか。確かに騒がしいが。
いや、やっぱり何か話をしている。けど語尾が聞きづらいな。うーん、何を
言っているのかよくわからない。・・・まあいいか。
私は動揺しながらも、商店街のさらに深部へと足を進めていったのです。
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