旅の話その9





    いままでにない感覚を感じ、あまりのショックに呆然となり、夢遊病者のごと
   くふらふらと歩いていくと、またもや路地がありました。先を見ると、どうも家
   具やら日用品を扱う店が並んでいるようです。

    私がとぼとぼと歩いていると、前方に2名のおばあがすわっています。けど、
   今度は商売人じゃないようです。なんだか楽しそうに大きな声で話をしています。
    でも遠すぎて会話は聞き取れません。
    とっても楽しそうに話をしている、そんなおばあ2名を見つめながら、ふらふ
   らとおばあに近づいていったのです。

    距離は30、40メートルはあったでしょうか。
    うちわでぱたぱたと扇ぎつつ、おばあの会話は続いています。そして、10メ
   ートルぐらいまで近づきました。そう、二人の会話がなんとか聞き取れるところ
   まで近づいたのです。
    が、何を言っているのかまだよくわからない。

      「もう少し近づけば、はっきり聞き取れる。」

   と思った瞬間、おばあの一人が私に気がついたのです。
    おばあはあわててうちわで相手の肩をぱたぱた叩いてあわただしく何か言って
   います。私の方を指さしながら・・・。

    もう1名のおばあは、びっくりしたような顔で周りを見渡し、そして私の存在
   に気がつきました。
    二人は私の方を数秒見て、お互いが向き合ったかと思うと・・・おっ、急に言
   ってることがはっきりわかるぞって・・・。だぁ〜!

    だー、ちゃーうまからやまとぐちやいびーがやー。
   (だから、どうしてそこで標準語になるんだろうか)

    ここまで同じ事が続くと、もはや疑う余地はありません。

   1  まず、私は明らかに本土から来た人間そのものであり、そういう風体をしてい
     るため、すぐにバレバレになること。(さほど日焼けしていないし、雰囲気です
     ぐにわかるんだろう。一応私は”縄文顔”なんだけど)

   2  そういう人間に対して、うちなーんちゅは、方言をしゃべらず、笑顔が消え、
     口をつぐむなど(本土の者 から見て)ものすごくよそよそしい態度を示すこと。
     (みんな、なにか当惑したような表情に見えた)

   3  これはいけない、なんとかコミュニケーションを取ろうとして、ないちゃーが
     万国共通と勝手に思い込んでいる標準語を”ぺらぺら”としゃべると、余計にう
     ちなーんちゅは警戒すること。
     (不快感がはっきりと表情に出ていた − 怒りと混乱が入り交じったような感じ)

    おばあは、私がこんな事を考えているとも知らず、標準語で井戸端会議をしています。
    私は、平常心を取り戻せないまま、おばあの横を通り過ぎました。二人の会話はたわ
   いもない世間話でした。
    二人から、一歩、二歩、三歩と遠ざかるうち・・・。
    やはり言葉は変わりました。またうちなーぐちです。

    私は10メートルほど離れた地点で後ろを振り返り、おばあの様子を見ました。ふた
   りはうちなーぐちで話をしている。・・・・。あ、一人がこっちを向いた。もう一人も
   ・・・。二人がこっちを見ている。

    数秒後 − 二人の会話はまた標準語に・・・。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

    私は、標準語でしゃべるおばあをしばらく見つめ、不思議な気持ちで、その場を去り
   ました。
    私がおばあ2名から遠ざかると、2名の会話はまた突然理解できなくなった・・・。

     「ああ、あまりにも不自然な光景を目の当たりにしてしまった。やはりここは異境
     の地。もっと沖縄のことを知る必要があるな。」

    こう考えたとき、私は沖縄そのものを知る手段を考え始めていました。


(続く)



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最終更新日 2000.08.22