音便について現在私が知りうる用法、すでに廃れた用法について書き出してみました。
1 音韻変化
音便
(1) si h 敷く ひく
(徳島から南方)
○ これは現在も徳島市を中心に顕著な言い回しです。
(2) ほうなんで そうなんで
ほうじゃな そうじゃな
(徳島市と周辺)
ほれ(代名詞) 「それ」のホ音便
語頭の「そ」が「ほ」に置き換わる
○ 徳島市を中心に顕著ですが、標準語の浸透で、「ほ」と発音しない場合もあります。
(3) s sh 狭い しぇまい (南方)
しゃびる(しゃび) 自動詞上一段 さびる
sa、seの発音がsya、syeになる。特にsye音便は顕著であでありますが
○ 近年、若年層を中心に、sye音便が消失しつつあります。(標準語の浸透か?)
(4) s f h そんな ふぉんな ほんな
○ 江戸時代、明治期は顕著であったであろうfの発音はほとんど残っておらず、
hに置き換わってきています。
(5) n の後に g 五合(ごごう) ごんごう
g− ng 一般的に連濁音がgは ngとなるが、阿波弁では連濁音でなくても常に
gは ngとなる
(音韻相通の項参照)
この音も、近年、消失しつつあります。逆に、古老はこの言い方しかしません。
ごはんたべよる ごはんたべちょる ごはんたべておる
gohan tabe(y)oru gohan tabe(ty)oru gohan tabe(te)oru
○ いずれも徳島でよく使用されますが、その使用については地域差があります
(6) こうた(こう) 他動詞五段過去終止 「買った」の音便
撥音を伴う一部の動詞の過去終止形は語頭に
「a」があれば、「a」が「o」になり、「っ」
が「う」に置き換わる特長がある。
食った → 食うた
○ この形態は、徳島だけではなく、西日本一円で顕著に見られます。
2 音の脱落、置換
(1) 句の脱落
で − ございま − せん で − せ − ん
ありま へん で − へ − ん
でよ で(す)よ
でわ で(す)わ
しない しな(さ)い
○ この句の脱落は、学校教育の影響で、次第にみられなくなっています。
(2) 音節の脱落
@母音
u の脱落 さと ごぼ とふ いとない かゆない (すべて南方)
e の脱落 つこーたげる ゆーたげる
助詞「て」においては「e」の部分が脱落する。これはもともと徳島市内の婦人語から
発生したが今は全県に及んでいる。
ておく とく (全県)
ねばならぬ せんならん
今日出かけねばならぬ 今日出かけんならん
文語文の訛化か?
ほーしー そうせよ
朝寝しー 朝寝せよ
○ これは、現在顕著に使用されています。
o の脱落 いくな いたけんど すぐ もんた
いくのは いったが すぐ もどった
あそばん もん あそばん もの だ
asoban mon asoban mono da
こたーない ことはない
kotaa nai kotowa nai
いたーない いとうない いたくない
itaa nai itou nai itaku nai
○ これは、現在顕著に使用されています。
A子音
sの脱落 さいて 指して sa(s)ite
あいた 明日 a(s)ita
わい わたい 私
wai wata(s)i watasi
○ これらの一部は使用されなくなってきています。「わい」だけが多用され、
男子のみが使用します。
r の脱落 あっちゃ あちら
atia atira
ほんな ほんなら そんなら そうなら
fonna fonna(r)a sonna(r)a sounara
この比較には疑問 「ほんな」と「ほんなら」は別の用法・語彙
雨があがっとう 雨があがっとる
ame ga agattou ame ga agatto(r)u
ほんなとこ そんなところ
fonna toko sonna toko(ro)
○ これは、現在顕著に使用されています。
B不同化
e i おまい おまえ
かいる 帰る
まいだ 前田
がき 崖
u o
i o ゆうやけ よーやけ
yuuyake yooyake
ひきづる ひこづる
hikizuru kikozuru
タニシ たのし
tanisi tanosi
○ この用法は、ひこづる以外ほとんど耳にしなくなりました。
C音韻相通
m−b 寒い さぶい
samui sabui
寂しい さみしい
sabisii samisii
g− ng 一般的に連濁音がgは ngとなるが、阿波弁では連濁音でなくても常にgは ngとなる
n− r 南天なんてん なりてん
○「なりてん」を除いて、顕著な言い回しです。
(3)音の置換
〜や 数詞 〜達 「あいつら」「おまえら」の「ら」が「や」
になる おまはんや あいつや
(きょう)ら 助詞(希) 今日(きょう)は。
「てにをは」の「は」が「ら」に置き換わる
地域がある(阿南)
○ 地域差はありますが、顕著な煤回しです。
(3)単音の長音化
きー カ変命令 来い
一部の動詞の命令形は一音を長音化する
特長がある
○ 阿波弁の特長のひとつで、この他にも数多くあります。
(4)現在進行形 連体形が命令の意味を持つ(弱意)
〜より 〜していなさい (柔らかい響きを持つ)
しより 書っきょり 見より
「れ」が「り」に置き換わったものか
○ 阿波弁の特長のひとつです。関西圏で顕著です。
(5)〜なんだ 助詞過去未然 〜なかった
「せなんだ」「書かなんだ」
○ 阿波弁の特長のひとつで、よく聞く言い回しです。
参考文献 「阿波言葉の辞典」
金 沢 治 著
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